ここ数年上昇傾向にあった都市部の地価ですが、最近になって上昇傾向の鈍化や下落の傾向が顕著になってきました。
平成20年8月に国土交通省が発表した「主要都市の高度利用地地価動向報告」(平成20年4月1日から7月1日まで)によれば、3%以上の上昇地点が姿を消し、三大都市圏・地方圏ともに価値の下落傾向が鮮明となっています。
不動産オーナーの相続対策の一つに、親から子に不動産贈与をする手法があります。
地価の上昇時には、相続時精算課税制度を活用した不動産贈与が注目されていましたが、最近のような価値の調整局面においては、この贈与の手法は見直す必要があります。
地価調整局面における相続時精算課税制度を活用した不動産贈与のポイントについて解説をします。
1.相続時精算課税制度の活用による不動産贈与
(1)相続時課税制度の仕組み
相続時精算課税制度とは、65歳以上の親から贈与を受けた20歳以上の子が選択できる贈与税の課税制度です。相続時精算課税においては、親から贈与を受けた子は、贈与を受けた際に、贈与財産に対する贈与税をいったん払います。贈与税の計算上、2.500万を超える部分について20%の税率で課税計算を行います。
贈与後、親が死亡した場合には、贈与財産と相続財産を合計した価格を基に相続税額を計算します。
この相続税額から、すでに支払った贈与税額を控除します。
(2)相続時精算課税制度の問題点
相続時精算課税制度による贈与を選択した場合、相続が発生時には贈与した財産が相続財産に加算されます。したがって相続財産を減らす効果はなく、基本的には相続税の節税にはなりません。また、相続時精算課税制度を選択した場合、合算される財産の価格は贈与時の価格であるため、価格変動に対するリスクがあります。不動産の贈与について相続時精算課税制度を選択する場合、贈与時よりも不動産価格が下落したときであっても、贈与時の高い価格で相続税の計算を行うので、結果的に税負担が増加しています。
2.子の財産形成のための贈与
(1)相続時精算課税制度選択による賃貸建物の贈与
「相続時精算課税制度の活用による不動産贈与」の解説の通り、地価調整局面で相続時精算課税制度の選択による不動産贈与を行いますますと、結果的に子の相続税負担が増加するおそれがあります。相続税の節税対策としては、明らかに不適切な手法です。しかし、子の財産形成と相続税の納税資金の確保という面から考えますと、相続時精算課税制度により賃貸建物の贈与を行うことには意味があります。この手法では親の相続税は減りませんが、子の財産は殖え、家賃収入の蓄積により親の相続税の納税資金を準備できます。また、この手法は相続税の節税を目的としませんので、節税改正の影響を受けないというメリットもあります。さらに、賃貸物件のみ子に贈与して、その敷地を贈与しないようにすると、地価変動による相続税負担の変動を避けることができます。
(2)賃貸建物を贈与する場合のメリット
親が賃貸建物を子に贈与すると、次のようなメリットがあります。
① 家賃収入を移転して相続税の納税資金が準部できる
賃貸建物に係る家賃収入を親から移転することができます。将来、自分の相続税が心配だという不動産オーナーの場合は、この手法で家賃収入を子に移し、相続税の納税資金を準備させることが可能です。
② 低い評価額で贈与できる
贈与税の計算上、建物は固定資産税評価額で評価します。固定資産税評価額は建物の建築価格の60%ほどです。
賃貸建物の場合、さらに借家権(30%)相当額を控除できます。
③ 所得税対策ができる
親が高額所得者で、子は所得が少ないという場合には、家賃収入を子に移すことによって、親の所得に対する税率と子の所得に対する税率の格差が利用できます。所得税は累進課税ですから、所得が多いほど高い税率が適用されます。高額所得者の親から所得の低い子へ家賃収入を移すことで、家族全体の所得負担を少なくすることができます。
④ 子が減価償却を計上できる
家賃建物を贈与することで、建物を取得した子が減価償却費を計上できます。
相続時精算課税制度を選択すれば、評価額2.500万円の賃貸建物を贈与した場合、贈与税はゼロです。この場合、子は賃貸建物の取得に関して全く支出をしていないにもかかわらず、親の未償還残高を引き継ぎ、建物の減価償却を計上することができます。
3.賃貸建物を贈与する場合の注意点
親から子へ賃貸建物を贈与することは、「2.子の財産形成のための贈与」の解説の通り大きなメリットがありますが、次のような点にも注意して対策を実行すると、より大きな効果が期待できます。
(1) 収益力の高い物件を贈与する。
子の財産形成のために贈与を行うわけですから、賃貸物件は収益力の高い物件でないといけません。収益力の有る物件を贈与できるように、親が賃貸不動産の内容をチェックし、修繕等の保守管理も十分に行うなどの事前準備が重要になります。
(2) 親の貸家建付地評価を使うならサブリースを行う。
賃貸建物の敷地は、相続の際に「貸家建付地」として、時用地評価から「借家権割合(30%)×借地権割合(地域によって30%~90%)」相当額が控除されます。賃貸建物を子に贈与し、その後に親が子に土地を使用貸借している場合は、自用地評価になります。
ただし、贈与時点から相続発生時まで賃借人に移動がない場合には、更地評価とならず、貸家建付地として評価されます。賃貸管理を業とする同族会社がある場合は、贈与前にその同族会社を介してサブリースをして賃借人を同族会社に固定しておけば、贈与後も土地が貸家建付地として評価されます。
地価の調整局面においても、子の資産形成や納税資金の確保の観点から相続時精算課税制度の活用は有効です。不動産の贈与を考える場合は、相続税の節税効果だけにこだわらず、多方面から効果を検討することが大切です。